
江戸時代に描かれた動植物の絵は、博物学的な記録としても面白いし、美術品としてみても魅力的だ。この本は、前半は外国から輸入された飼い鳥の絵、後半は梅園禽譜のなかの日本の野鳥の絵を集め、簡単な解説をつけたもの。


載っているのは、増山正賢『百鳥図』、水谷豊文『水谷禽譜』、毛利梅園『梅園禽譜』、牧野貞幹『鳥類写生図』、『薩摩鳥譜』、『外国珍禽異鳥図』、『外国産鳥之図』の一部。これらは、いずれも国会図書館のインターネットサイトで閲覧(およびダウンロード)できるので、それを見て書籍版がほしいという人には便利な本。反対に、この本で興味をもったら、国会図書館や東京国立博物館のサイトもみると面白いと思う。
類書としては、前半は磯野直秀『舶来鳥獣図誌』(八坂書房)、後半は『鳥の手帖』(小学館)がある。
この本の中のコラム「十姉妹、壇特とコシジロキンパラ」については、私は著者とはべつな考えを持っているので、以下それを書いておこうと思う。
このコラムでは、江戸時代の十姉妹はコシジロキンパラ華南亜種(Lonchura striata swinhoei)、壇特(ダンドク)はコシジロキンパラ雲南亜種(Lonchura striata subsquamicollis)であり、今日の十姉妹はこれらの交雑によってできた、とある。雲南亜種というのは、中国の呼び方で、主にインドシナ半島に分布する亜種のこと。
ただ、私はダンドクは中国から輸入されたコシジロキンパラではないと考える。中国から輸入された鳥は、中国名で呼ばれるが、ダンドクについては中国にその記録がない。また描かれた鳥はコシジロキンパラと異なっている。
まずコシジロキンパラはインドシナ亜種も含めて、腰が白い。

Lonchura striata subsquamicollis(プーケット島)※

Lonchura striata subsquamicollis(マレー半島)※

Lonchura striata subsquamicollis(マレー半島)※

Lonchura striata subsquamicollis(ベトナム)※
この本に出ているダンドクの図は以下。(図32については、原図を見るとダンドクの指す鳥が不明なので省略した)



これだと、腰の部分は少し分かりづらいが、次を見ると、腰が黒かったのが分かる。


ダンドクとは、オランダ船によって運ばれた、ジャワ・キンパラ(Javan munia, Lonchura leucogastroides)である。


※ Robin Restall, "Munias and mannikins" Yale Univ. Press, 1997
