2011年12月30日

余曽三『百花鳥図』中の「五更鳴」について

国会図書館にある『百花鳥図』について、菅原浩・柿澤亮三『鳥名の由来辞典』は次のように、解説している。

清の康熙帝の命により、余曽三が100種の鳥を写生し張廷玉と顎爾秦が詩を賦した図譜で、雍正帝の時に完成し、その写本が乾隆2年(元文2年)に日本に渡来したもので、原本は現在中国に残っていない。……この図譜は江戸時代に「百鳥図」と呼ばれ中国の鳥名に当たる和名を求めるのに用いられた。

この図譜の原本は、中国大陸に残っていないようだが、台湾の故宮博物院には(おそらく写本が)『鳥譜』という名称で残っている。(ただし、故宮博物院ではその由来を把握していないらしく、作者、年代とも不明としている。また、複製がお土産として売っているようだ。)

国会図書館にはこの図譜は2部存在する。両者で順番がかなり異なるので、もとはバラバラな絵と詩の束であったと考えられる。

この図譜にある「五更鳴」が、国会図書館蔵と故宮博物院蔵で、まったく違っている。

2011123001.jpg
国会図書館蔵「五更鳴」A、鳥種不明
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1286868/63

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国会図書館蔵「五更鳴」B、鳥種不明
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287325/32

2011123003.jpg
故宮博物院蔵「五更鳴」、ホトトギス
http://catalog.digitalarchives.tw/item/00/43/39/5f.html

今日では、「五更鳴」という名は、特定の鳥名としては用いられていない。五更(明け方)に鳴くという意味なので、どのような鳥にもつかえる曖昧な名称だ。

堀田正敦が1830年ころに著した『禽譜』が、東京国立博物館にあり、その中に『百花鳥図』から写した「五更鳴」の図がある。

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東京国立博物館蔵「五更鳴」、コシジロキンパラ
http://image.tnm.jp/image/1024/C0060467.jpg

国会図書館蔵の2図はともにこの図の左上の鳥と同じで、色が違っているだけである。つまり原本の「五更鳴」は、コシジロキンパラだったのである。

そして、じつはこの東京国立博物館蔵「五更鳴」と同じ絵が、故宮博物院蔵『鳥譜』中に「偷倉」という名前で、存在する。

2011123005.jpg
故宮博物院蔵「偷倉」、コシジロキンパラ
http://catalog.digitalarchives.tw/item/00/43/39/61.html

さらに、大川市立清力美術館所蔵の「五更鳴」(「稲に鳥図」)という、故宮博物院蔵「偷倉」とそっくりな絵を見つけた。

2011123006.jpg
大川市立清力美術館所蔵の「五ノ十七/五更鳴」(「稲に鳥図」)

以上から、私は次のように想像する。

余曽三が最初に書いた絵は、穀物(キビあるいはモロコシか)に停まるコシジロキンパラの絵で、そこに添えられた「五更鳴」という名は、「朝にさえずる鳥」というほどの意味であったと思う。(※1) その絵に、張廷玉は「五更鳴」の詩を賦した。

その絵の写しが複数つくられたが、@忠実なものの他に、A鳥の色を青く変更したもの、B穀物を花木(ヒメライラックか)に置き換えたもの、が存在した。

東京国立博物館蔵「五更鳴」は@、大川市立清力美術館所蔵「五ノ十七/五更鳴」はA、国会図書館蔵「五更鳴」はA、にもとづいている。「五ノ十七」とは5冊目の17番目の図という意味であろう。

故宮博物院蔵はBであるが、さらに「五更鳴」を描かれた鳥の名である「偷倉」に変更した。(※2)その結果、張廷玉の詩「五更鳴」に対応する絵がなくなったため、別にホトトギスを「五更鳴」の絵として付け加えた。

(※1) 『百鳥花図』では、鳥の種名を図ごとに記載しているので、余曾三が参考にした図に「五更鳴」とあったのを、鳥名と誤解したか、あるいは「五更鳴」もコシジロキンパラの名称の一つであったのかも知れない。
(※2) コシジロキンパラの当時の呼称が、「偷倉」であることは、1562年刊の『浙江通志』中に「透倉、俗名十姉妹」とあることから分かる。倉に入れた、あるいは入れるべき穀物を盗み食うという意味だと思われる。

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posted by yanagisawa at 16:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 飼鳥の歴史
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