2016年06月05日

悪魔の証明

「悪魔の証明」という、ある事物や現象が存在しないことの証明を意味する言葉があります。今世紀になってネット上で広まった俗語なのですが、学問的な基礎をもつ高級な言葉であると信じている人を多く見かけます(ました)。

例えば「アイルランドには蛇がいる」ということを証明するには、蛇を一匹見つければ良いですが、「アイルランドには蛇はいない」ということを証明するにはアイルランド中をくまなく探査する必要があり、非常に困難です。このような、存在しない事の証明を悪魔の証明と呼びます。ネットではさらに踏み込んで、蛇の存在を示すことができないなら、蛇はいないと考えてよい(悪魔の証明はする必要がない)と信じている人も多いようです。

(これは余談ですが、アイルランドにキリスト教を広めた聖パトリックは全ての蛇を海に沈めた、という伝説があり、実際、アイルランドに野生の蛇はいないそうです。)

しかしこれは単純すぎる議論であって、例えば、「アイルランドには新種の昆虫はいる・いない」という議論ではどちらも証明は難しくなります。

(さらに、「アイルランドには発見されていない生物が存在する・しない」だとその生物を発見した瞬間に、発見されていない生物ではなくなってしまいますね。どうやって存在を証明するのでしょうか?)

他にも、「危険性」と「安全性」のように問題設定の仕方で、証明の対象が変わってしまうもの、「〜する価値がある」、「〜する可能性がある」 のように物体ではないものなど、様々な場合によって証明の困難さは異なり、悪魔の証明という概念はいささか単純すぎます。

そのため、現在のwikipediaではネットで流布している用法を削除して、法学関係の用法のみ掲載されています。

古い版だとネットで見かける使い方を読むことが出来ます。)

私が興味があるのは、この「悪魔の証明」という言葉がなぜ広まったのかという点です。Wikipediaの一番古い版が2004年で、私もこの頃初めて見た記憶があります。当時は、あまり学問的素養のない若い人たちが得意げに使っていたので、マンガやライトノベルがきっかけになっているのかという印象でしたが、実際はどうなのでしょうか? 知っている人がいたら教えてください。

(これも余談ですが、存在しない事の証明というのは数学の世界ではいろいろあって、例えば、角の三等分の作図や5次以上の方程式の解の公式が存在しない事の証明は、よく知られています。数学では、存在しないことを言いたかったら、それを証明するしかなくて、悪魔の証明という言葉の出る幕は残念ながらありません。しかし、不在の証明はしばしば難しく、例えば、自然数と実数の中間の濃度は、存在することも、存在しないことも証明できないことが証明されているそうです。面白いですね。

数学の論理体系自身の無矛盾性も証明できないことが証明されています。この無矛盾性は数学者が深く信じている事実なので、アンドレ・ベイユはこう言ったそうです。「神は存在する。なぜなら、数学は無矛盾だから。悪魔は存在する。なぜなら、人はその無矛盾性を証明できないから。」 私が悪魔の証明という言葉から連想するのは、このベイユの言葉です。)

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posted by yanagisawa at 00:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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